華岡青洲先生の墓前に報告してきました
昨日(日曜)、西国巡礼の道すがら、華岡青洲先生のお墓参りをしてきました。
なんで、いったの?って・・・。
いや、これには、深いわけがあります。
華岡先生は、世界初の全身麻酔下の手術を成功させたってことは、みなさんご存じですよね。で、その全身麻酔って、どんなだったかご存じですか? 実は、現在使用されている麻酔薬とはまったく性格の違う薬剤を使っておられたんです。彼の麻酔薬:通仙散の主たる成分は、スコポラミンという物質(薬剤)です。この薬剤は、現在、内視鏡検査時などに、腸の動きを遅くするために使われています。いや、正確にいうと使われていました。で、このスコポラミンは、投与すると、若干眠たくなります。ま、僕らにとっては、「副作用」です。で、青洲先生は、この副作用を利用されたんです。つまり、すこぽを中毒量(大量)投与すると、意識水準が下げることができ、手術が可能な状態にすることができるんです。一方で、スコポラミンは眼圧を上げてしまいますから、緑内障の方に投与すると失明してしまいます。華岡先生の奥さんが失明したのは、これが原因です。また、心拍数が非常に高くなりますから、心臓の悪い人、特に大動脈弁狭窄や冠動脈疾患のある方は、死に至ります。
さて、このスコポラミンですが、緩和ケア病棟では、臨死期の喘鳴に対する緩和医療学的治療として、頻用します (少なくとも、たかはし先生は頻用しています)。喘鳴の消失とともに、ほどよい鎮静効果もあるので、非常に使い勝手がいい薬剤でした。しかし、いかんせん薬価が安いので、製薬会社が作りたがらないって噂は昔からって、「販売停止にならなきゃいいけどな~。」って思ってたやさき、先日ついに発売停止になってしまいました。かなしいですね。
で、昨日、青洲先生の墓前に、このことを、ご報告申し上げたんです。「先生の通仙散の主たる成分であるスコポラミンですが、その注射製剤が、ついに販売停止になりました。一つの時代が終わったようです。先生の施術から学んだ知識を、もう臨床応用することはできなくなったしまいましたが、時代がかわったんだと思って、前をむいていきます。スコポラミンがなくても、より良い治療が行えるように、精進いたします。」と。
帽子をかぶった形のお墓が、青洲先生のお墓です。
さて、僕が、麻酔科医になった頃、重要な麻酔薬であるラボナール®も、同じような危機を迎えていました。その時は、麻酔科医たちが「Saveラボナール」運動を展開し、薬価増(たしか10倍くらいになったと記憶しています)とともに、生産継続を勝ち取りました。ハイスコ®では、そんなmovementがなかったのは、悲しいことです。今後、古いけどいい薬が、「薬価が安くて採算性がとれない。」という理由で発売停止にならないことを祈りつつ・・・。
たかはし