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ヒドロモルフォンを考える

最近、ヒドロモルフォンについて話題に上ることが多いので、たかはし先生の考えについて、まとめてみることにしました。以下、当院の公式見解ではなく、あくまで個人の感想です(といいつつ、公式HPのブログに書いとるやんけ)。

歴史は古い
各種オピオイド鎮痛薬の歴史(販売年)を表にまとめてみました。

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こうしてみると、ヒドロモルフォンって日本で発売されたのは最近だけど、歴史は古いんです。
さて、この表から一つ気づくことがありませんか。歴史の古いモルヒネは別として、オピオイド鎮痛薬の販売年には、2つのグループがあります。一つは1960年代から70年代、もう一つは2010年代です。1960年代から70年代に発売されたオキシコドン・フェンタニル・トラマドールは、モルヒネとともに、言わば「痛みの治療の基本薬」。一方、2010年代に発売されたメサドンと、今回話題のヒドロモルフォンは、後発薬品であり、西暦2000年までは、存在しなかった薬剤。言わば、なくても何とかなる「オプション」と言えます。

メサドンは特殊だから…
このうち、メサドンはかなり特殊な薬剤です。オピオイド鎮痛薬のアゴニストであると同時に、NMDA受容体の拮抗薬でもあります。この性質のおかげで、他のオピオイド鎮痛薬では薬効を認めない癌患者さんにも、鎮痛効果を認めることがあります。特に骨転移による痛み、その中でも神経障害性疼痛成分がからんだ痛みを訴える患者さんには、いまやメサドン一択と言っても過言ではありません。一方で、メサドンの薬物動態は極めて特殊。ジギタリスのように飽和状態になってはじめて薬効が安定するし、そもそも飽和に至るまでの個人差が大きいので、使用には熟練が必要です。他のオピオイド鎮痛薬と同じように使っていると、(医者として)痛い目にあいます。この「特殊な薬物動態」が、メサドンが「オプション」の地位に甘んじている理由と言っても過言はありません。

じゃ~ヒドロモルフォンは?
ヒドロモルフォンには、メサドンみたいな、「このタイプの痛みには、この薬じゃなきゃだめ。」という『唯一無二』的な薬効はありません。一方で、モルヒネと同様に痛みだけでなく、呼吸困難感にも薬効があります。さらに、モルヒネのように腎排泄性ではないので、腎機能が低下した患者さんにも、安全に使うことができます。もちろん、メサドンのような、ヤヤコシイ薬物動態ではなく、他のオピオイド鎮痛薬と同様の使用法でOKです。これらの性質は、あたかも「他のオピオイド鎮痛薬を使わなくても、ヒドロモルフォンだけでいいんじゃない。」と思わせます。
じゃ~、なぜヒドロモルフォンはオプションの地位に甘んじてきたのでしょう。

ヒドロモルフォンの前に、モルヒネに関する不都合な真実
みなさん、生体利用率ってわかります? 薬物動態学における重要な指標のひとつで、投与された薬剤のうち、どれだけの割合が化学変化を受けない未変化体のまま全身の血液循環に到達するかを示す指標です。内服薬なら腸管吸収効率、貼付薬なら経皮吸収効率と言い換えることができます。
古典的なオピオイド鎮痛薬であるモルヒネは、この経口生体利用率(腸管吸収効率)が低く、しかも個人差が大きい(2550%程度)とされています。この数字から計算すると、10mg内服しても、2.5mg静注したのと同じ人もいれば、5mg静注したのと同じ人がいるわけです。この経口生体利用率の個人差は、患者さんが終末・臨死期を迎え、内服薬を服用できなくなった時に「きいて」きます。
一般的な臨床の場では、モルヒネの場合、経口→静注(もしくは皮下注)の換算比は2:1とされています。内服薬10mgを服用なさっている患者さんなら、5mgの持続皮下注射に変更すると、同じ薬効を維持できるというわけです。しかし、上記のデータから勘案すると、生体利用率の悪い(25%程度だった)患者さんの場合、5mgを持続皮下注射すると、20mgの経口投与と同等になります。つまり、終末・臨死期を迎え、全身状態が悪いにも関わらず、いきなり2倍量のモルヒネを投与することになります。もちろん、注意深く観察していると、「あっ、この人効きすぎてる。もともと生体利用率の悪い人やったんちゃうかな。」と察知して、持続皮下注射投与量を減量します。とはいえ、あぶないっちゃ~あぶない。患者さんにも、不利益を与えてしまう可能性もあるっちゃ~ある。
以前は、痛みだけでなく、呼吸困難感にも薬効が証明されているオピオイド鎮痛薬はモルヒネしかなかったので、この「有難くない性質(不都合な真実)」を持っているにも関わらず、「しゃ~ないか~。」と思い、我々はモルヒネを多用してきました。しかも、モルヒネは腎機能が障害されていると、用量調整(適切な減量)が必要なうえ、せん妄などの望まない精神医学的作用が発現しやすくなります。最悪でしょ。であったとしても、モルヒネにとって代わる薬剤はなかったんです。

モルヒネに比べてヒドロモルフォンは
そこで、ヒドロモルフォンの登場です。ヒドロモルフォンは、グルクロン酸抱合で代謝され、代謝産物に活性がありません。よって、多少の肝機能障害患者さんでも、相当腎機能が障害された患者さんでも、用量調整が必要ありません。薬効は同じであるにも関わらず、腎機能障害患者さんにも安全かつ簡便に使えるという、いわばモルヒネの上位互換として登場したわけです。
一方で、不都合な真実:経口生体利用率(腸管吸収効率)の個体差の大きさは、モルヒネと同等です。

ここにゲームチェンジングな研究成果がでてきた
以前は、「オキシコドンには呼吸困難感抑制効果はない。」が定説でした。これが、オキシコドンではなく、あえて生体利用率の個人差が大きいモルヒネやヒドロモルフォンを使い続ける理由でした。
しかし、臨床現場では、「いやいや、オキシコドンにも呼吸困難感抑制効果はあるで。」が本音でした。そこで、山口先生たちが、この疑問に答える研究を行ってくれました。Takashi Yamaguchi, et al. Efficacy of immediate-release oxycodone for dyspnoea in cancer patient: cancer dyspnoea relief (CDR) trial. Jpn J Clin Oncol. 48(12):1070-1075.です。詳細は省きますが、「オキシコドンにも呼吸困難感抑制効果はある。しかも、結構あるで。」というデータです。この研究成果は、まさにゲームチェンジングでした。
オキシコドンは、肝代謝性薬剤なので、肝機能障害患者さんには多少の配慮は必要だけど、相当腎機能が障害された患者さんでも、用量調整が必要ありません。一方、生体利用率が高く、かつ安定している(6090%程度:個人差は1.5倍程度)ので、経口投与→持続皮下注射への変換にも、あまり気を使う必要はありません。つまり、終末・臨死期において、非常に使いやすいということです。このオキシコドンに呼吸困難感抑制作用があるなら、生体利用率のばらつきが多く、終末・臨死期において使いにくいモルヒネやヒドロモルフォンを、あえて使う意味がなくなります。これが、ヒドロモルフォンが、「オプション」に甘んじた理由です。
きつい言い方ですが、呼吸困難感に対して確たるエビデンスがあるモルヒネはまだしも、薄いエビデンスしかないヒドロモルフォンを「呼吸困難感にも効く、痛みの治療の基本薬」として使い続ける医師は、ほんまに終末・臨死期の患者を丁寧に診てんのか! とすら、思ってしまいます。おっと言い過ぎた(>_<)

さらに、フェンタニルの存在意義も
さらに事態は変化します。多少前後しますが、オピオイド鎮痛薬誘発性腸管障害の治療薬であるナルデメジン(スインプロイク®)が、2017年に発売されました。このナルデメジン発売により、他のオピオイド鎮痛薬に比べてオピオイド鎮痛薬誘発性腸管障害が少ないフェンタニルを、あえて使う理由も減りました。このような状況を勘案すると、オピオイド鎮痛薬は、特殊な状況を除けばオキシコドン一択でいいのではないかと思えてきました。

オキシコドンにも欠点はあるが、我々は克服しつつある
たしかに、オキシコドンにも欠点はあります。それは、耽溺性が一番強いことです。あまり有名ではありませんが、Opioid Attractiveness ScaleOAS)というものがあります(Butler SF, et al. Development and validation of an Opioid Attractiveness Scale: a novel measure of the attractiveness of opioid products to potential abusers.Harm Reduction Journal. 2006;3:5.)。各種のオピオイド鎮痛薬が薬物乱用者にとってどの程度魅力的かを数値化したものですが、No.1に輝いたのはオキシコドンでした。しかも圧勝(いいのかわるいのか)。一方、最下位はDuragesic fentanyl reservoir patch。日本で言えばフェントス・デュロテップパッチですね。
かつて、日本の臨床現場(緩和ケア領域)では、『背中いっぱいデュロテップ』という患者さんを多く見かけました。これは、Attractiveはオピオイド鎮痛薬であるオキシコドン速報性製剤の使用量を鑑みて、まったくAttractiveではないデュロテップパッチの貼付量を調整していたからです。やや耽溺的にオキシコドン速報性製剤を使うと、デュロテップパッチを増やす。でも、デュロテップパッチには爽快感(これが奏功感と勘違いされる)がなく、さらにやや耽溺的にオキシコドン速報性製剤を使う。すると、医療従事者はデュロテップパッチを増やす。このスパイラルに陥り、『背中いっぱいデュロテップ』患者が作られます。患者さんは、オピオイド鎮痛薬の過量投与によるPerformance低下に悩んでおられることが多く、デュロテップを減量することで、活動性な生活を取り戻しておられました。
このような「暗い過去」はありますが、いまでは、Opioid Attractiveness Scaleという言葉は知られていませんが、オキシコドンとフェンタニル貼付剤の、こういった性質の違いについては、各臨床現場で共有されています。ですのえ、以前のような『背中いっぱいデュロテップ』はなくなりました。ある意味、我々はオキシコドンの欠点を克服しているのかもしれませんね。
以上のことから、たかはし先生は、特殊な状況を除けばオキシコドン一択でいいのではないかと思っています。実際、アメリカでのオピオイド鎮痛薬シェアは、圧倒的にオキシコドンですしね。

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じゃ~、特殊な場合って?

メサドンを使うsituation
骨転移による痛み、その中でも神経障害性疼痛成分がからんだ痛みを訴える患者さんには、メサドン一択です。ただし、心電図でQTcが延長していたら、オキシコドン+ケタミンにせざるをえません。

モルヒネを使うsituation
オキシコドンが呼吸困難感にも効果があるといっても、モルヒネに対する非劣勢は証明されていません。これには、個人差が関係していると思っています。具体的には、呼吸困難感にオキシコドンが効きやすい人や状況がある一方、モルヒネが効きやすい人・状況もある。しかも、モルヒネ効きやすい人・状況の方がちょっと多いんじゃないかと思っています。なので、オキシコドンで呼吸困難感が緩和されないときは、モルヒネの出番です。また、痛みは訴えられず、呼吸困難感のみを訴えられる場合も、モルヒネの「絶対的」出番ですね。なぜって? 日本では、オキシコドンに「呼吸困難感」の保険適応がないからです。実は、いまオキシコドンを呼吸困難感に対して使う時は、「痛み止めとして使ってますけど、呼吸困難感も緩和されちゃいました。」という立場なんですよね。方便ですけどね。

フェントスを使うsituation
薬剤服用は難しい(めんどくさいも含む)けど、持続皮下注射をする状況ではない(例えば活動性が高いなど)場合です。ただ、これって、けっこう多いんですよね。

ヒドロモルフォンを使うsituation
実は、経口製剤が圧倒的に小さい。つまり小粒(^ο^)
それだけかよって思われるかもしれませんが、これって重要なんですよね。でも、使う理由はこれだけです。小粒が好きな人。経口にこだわりたい患者さん…。それくらいですかね。ちなみに、ヒドロモルフォンの内服薬をお飲みの患者さんが緩和ケア病棟に入院した場合、あえて他のオピオイド鎮痛薬に変更しないようにしています。また、その患者さんが、薬剤を服用できなくなって、オピオイド鎮痛薬の投与経路を持続皮下注射に変更する場合も、前述の生体利用率の個人差に注意しながら、慎重に変更しています。

以上、難しい薬の話し(つまり薬理学)を読んで頂き、ありがとうございました。

学位(医学博士)は薬理学教室で取得した たかはし でした。

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