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《指導医ブログ》医師としての成長を導く「羅針盤」:大きな目標を持つ重要性(呼吸器内科部長 Dr.中島)

1. イントロダクション:なぜ今、「目標」を問うのか

研修医の皆さん、日々の臨床本当にお疲れ様です。皆さんは今、膨大な知識の習得と目の前の患者さんの命に向き合う重責の中で、多忙を極めるローテーションを回っています。この圧倒的な業務量の中で、「何のために」この道を歩み続けているのか、立ち止まって考える時間は持てているでしょうか。目の前の診療をこなすことはもちろん最重要課題ですが、医師としてのキャリアを長期的に見据えたとき、「大きな目標」を持つことこそが困難を乗り越えモチベーションを持続させる最強の羅針盤となります。

私自身の例を挙げると、私の大きな目標は「臨床研究を通じ、既存のガイドラインや常識を打ち破り、患者さんの真の満足度や生活の質(QOL)を最大限に考慮した革新的な治療を一人でも多くの患者さんに提供する」ことです。この目標があるからこそ、日々の臨床業務のその先に研究という視点を持ち続けることができます。大きな目標は、単なる夢や理想ではなくあなたが最も価値を置く医療とは何かを定義し進むべき方向を明確に示すためのビジョンなのです。

2. 大きな目標から逆算する目標設定の構造

大きな目標は壮大であればあるほど、日常業務とはかけ離れているように感じがちです。ここで重要なのは目標を具体的な行動に落とし込むための構造化、すなわち目標の階層構造を理解することです。これは大きな理想を日常の具体的なアクションに変換するプロセスです。

まず、設定すべきは「大きな目標」です。これはあなたの医師としての最終的な理想像であり、5年後、10年後、あるいはキャリアの終わりまでに医療界や患者さんにどのような貢献をしたいかという、定義付けになります。例えば、「特定の疾患の治療において世界的に標準となる新しい手術手技を確立し、その予後を劇的に改善する」といった目標が該当します。ここでは心から達成したいと思うことを限界を設けずに設定してください。

次に、この大きな目標への到達には数十年単位の段階が必要となるため「中間目標」を設定します。これは目標達成を測るためのマイルストーンであり、具体的な達成期限を設けることでより具体性が増します。例えば、「3年以内に、国内外の主要な学会で研究成果を〇〇件発表する」や、「5年以内に特定の分野で専門医・指導医の資格を取得し、臨床研究のリーダーシップを取る」といったものが該当します。大きな目標に到達するために知識、技術、人脈のどの部分をいつまでに補強する必要があるかを具体的に洗い出す段階です。

そして最も大切なのが「小さな目標」です。これは中間目標を達成するために、今日、今週、今月中にできる最も具体的で日常に組み込める行動に落とし込むことです。例えば、「毎週関連する最新の臨床論文を2本批判的に読み込み、要約をノートにまとめる」といった行動がこれにあたります。小さな目標は、「行動」と「測定可能な結果」を含めて設定することで、実行の確実性が高まります。日々の忙しい臨床業務の中に目標達成に向けた「種」を植えるこの小さな積み重ねがやがて大きな目標達成へと繋がる複利効果を生み出すのです。

3. 現代医療の時流:SDMとコミュニケーション能力の不可欠性

あなたの大きな目標が「より良い医療の提供」であるならば、現代社会の医療が求める時流を理解しそのスキルを磨くことは避けて通れません。その最たるものがShared Decision Making (SDM)、すなわち患者さんとの共同意思決定です。
以前の医療は医師が一方的に最善と考える治療を提供するパターナリズムが主流でした。しかし医療の高度化、情報公開、そして患者さんの権利意識の向上に伴い医療は協働の時代へと完全に移行しました。SDMとは医師が持つ専門的な科学的根拠と患者さんが持つ個人的な価値観、生活環境、希望とを対等に共有し最良の治療方針を一緒に作り上げていくプロセスです。あなたの目標が「患者満足度を考慮した治療」であるならば、SDMこそがその実現のための核心的な手法です。患者さんが治療の決定プロセスに主体的に関わることで、治療に対する納得感とアドヒアランス(治療継続率)が高まり結果として治療アウトカムの向上に直結します。

このSDMを単なる説明責任の履行で終わらせないためには、高いコミュニケーション能力が不可欠となります。これは、単に優しく話すということではなく、情報を正確に伝える力、患者さんの不安や価値観を深く理解しようとする傾聴と共感の力、そして複数の治療選択肢を公平に提示し、それぞれのメリット、デメリット、不確実性を明確に説明する力が求められます。このコミュニケーション力こそがあなたの臨床研究のヒントにもなります。患者さんが「ガイドラインにはないが、本当に求めていること」という生の声は、現在の治療の未充足なニーズ(Unmet Needs)を見つけ、新たな研究テーマを生み出すこととなるからです。この社会の時流に乗り遅れないためにも日々の臨床で患者さんと真に対話するスキルを磨き続ける必要があるのです。

4. 結び:大きな目標が研修医生活を充実させる

研修医の期間は知識や技術を吸収するだけでなく、医師としての倫理観とビジョンを確立する大切な時期です。大きな目標を持つことで日々の忙殺される業務の中でもどの行動が自分の未来に繋がるのか、どの知識が自分のビジョンを達成するために必要かを常にフィルタリングできるようになります。

大きな目標(ビジョン)を持ち、それを小さな目標(アクション)に分解し、SDMという現代医療の必須スキルを磨くこと。この三位一体のアプローチこそが皆さんが描く今後の理想の医師像へと確実に導いてくれるでしょう。今日から「明日、目標達成のために何をするか」という小さな問いかけを日常のルーティンに加えてみてください。

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