《指導医ブログ》Nothing is permanent(放射線科Dr.)

医学生のみなさんこんにちは。放射線科Fと申します。

ウグイスの鳴き声が何とも心地よく放射線科の読影室に聞こえてきます。日本人に親しまれている春の鳥といえば、ウグイスということになるでしょうか。春先から、このウグイスの鳴き声が読影室に聞こえてきます。読影をしていると、ホ-ホケキョとなんとも心地よい感じで聞こえてきて、忙しい日々の診療の中で癒やされます。

新型コロナ感染症は誰もが関心のある事柄ですので、これについて書いてみようと思います。最初に断っておきますが、これを書いている私自身は、新型コロナの専門家でも何でもありません。

ル-チン検査のCTで、たまたま新型コロナ肺炎を疑う所見があることがあります。また新型コロナ肺炎確定症例でのCTで、思いもよらない合併症がみつかることもあります。

肺炎については、医学生の皆さんもすでにご存じかと思いますが、肺炎以外の全身合併症については、あまり経験されていないかも知れませんので、日本医学放射線学会総会で勉強したこと(自治医科大学附属さいたま医療センタ-の真鍋徳子先生のご講演を簡単にまとめたもの)を書きます。

周知のごとく、COVID-19が通常の風邪と違うのは、侵される臓器が全身多岐にわたるということと、通常の風邪のように1週間程度の経過で終わらない症例が存在するということです。これはコロナの感染病態に起因しており、サイトカインスト-ムにより炎症細胞の過活性を起こし、正常な細胞への攻撃、間接的に血管内皮に障害をもたらし、このため全身の様々な臓器に異常を来すと考えられています。Hypercoagulopathyを中心に、様々な合併症を起こし、場合によってはDICをおこしたり、血栓の程度も様々です。サイトカインスト-ムが起こった際には、全身のCTではどのように写ってくるのでしょうか。肺の炎症がそれほど顕著でなくても、直接ビリルビン値の著明高値がみられた場合、肝臓や腎臓の造影効果が不均一となっており、急性肝炎、acute kidney injuryの状態となっているようです。腹腔動脈の高度のspasm様の狭小化、膵炎も起こし、虚血による多臓器不全の状態となっている場合もあるようです。腸管の障害は、腸管気腫や門脈ガスなどの腸管虚血や腸管梗塞があり、原因として、腸管の直接感染、小血管の塞栓症、NOMI(非閉塞性腸管虚血症)が考えられています。COVID-19陽性の腹部CTでは、まれに腸管穿孔や胆道内出血などもきたすことがあり、腹部所見は多彩で様々な疾患をきたしうるようです。肺では、びまん性の浮腫に加えて、動脈性および静脈性の血栓症が起こっており、重症者の剖検例では80%に微小血栓症が認められたとのことです。

COVID-19の合併症や後遺症として、心臓障害が注目されているようです。呼吸器症状が前面に出ていると、画像上、心臓病変を疑うことは難しいのですが、COVID-19の胸部CT読影時に気をつけるポイントとして、心嚢液貯留をみたら、心臓病変合併を疑うことが重要であり、頻度は低いものの心臓病変が前面に出てくるような症例の報告もあります。冠動脈に異常のない心筋梗塞がおこる場合もあり、これは心筋の微小血管に多発血栓を形成している状態のため心筋壊死がおこるのですが、冠動脈には異常がないので、当然心臓CTではわからないとのことです。中枢神経病変も発症し、ウイルス関連のMERS(可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽度の脳炎、脳症と呼ばれる予後良好な疾患群)をきたすとのことです。

新型コロナ感染症後の後遺症についても注目されています。発症から3~4週以降の症状であり、PASC(急性期を経た後のコロナ感染後の後遺症)という新たな概念でLong COVIDとも呼ばれています。COVID-19治癒後でも心臓に病変があるとのことで、病変の主体はperimyocarditis(心膜心筋炎)と考えられており、様々な程度で何らかの心筋障害が高率に起きているようです。

注目すべきことは、この心筋の炎症は、ウイルスが体内から排泄された後の後遺症ということです。感染治癒後でも心臓の炎症が持続しているということについては、大変衝撃的と思います。PASC(急性期を経た後のコロナ感染後の後遺症)という新たな概念も重要で、コロナ感染者が増えるということは、肺炎治療後の患者さんが増えていくということになり、時間差で、今後ポストコロナの状態が増えていくということです。このように全身の臓器がタ-ゲットとなるので、今後も放射線科はさまざまな診療科から、画像のコンサルトを受けることとなります。

画像診断も絶えず変化し続けていて、まさに諸行無常と感じています。みなさん体調管理にはお気をつけください。